Rudy Purba (インドネシア)
ANUedge(オーストラリア国立大学、キャンベラ)
開発プロジェクトディレクター
Public Policy Program (2001年修了)
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GRIPSで学際的アプローチを使った研究を通し、政策分析能力を養いました。
-あなたの専門分野とその分野に従事するに至った経緯を教えてください。
オランダのハーグ大学とデルフト工科大学(TD Delft)で工学(Ingenieur/Ing)の学士号を取得したあと?、インドネシアの技術評価応用庁(BPPT)で、科学技術研究の企画官および政策アナリストとして働き始めました(BPPT...工学?科学技術専門の政府研究機関。研究技術省(RISTEK)と連携。)。企画官としては、3 年にわたる科学技術指標プロジェクト(世界銀行出資)のプログラムマネージャーを務め、RISTEKとBPPTの科学技術政策策定をサポートするなど、様々な職務に携わりました。また、同時期から1999年まで、研究政策と技術革新政策の政策分析、科学技術研究プロジェクトの監督評価、技術展望、官民両セクター間の研究協力の監督評価等、様々なプロジェクトチームの指揮をとりました。
しかし、革新とはビジネスや産業界から突き動かされるべきであるという教訓、自分がそのような教訓を支持する立場に立ったこと、そして当時のインドネシアを襲っていたアジア経済危機によって仕事量が減少していたことなど総合的な状況から、私はBPPTでの職を辞することを決め、産業技術シンクタンクへ移りました。その後はジャカルタにおいて共同起業し、サプライチェーンと物流、電子通信、および製品製造の分野で事業展開をしていきました。
2007年にはオーストラリア人の妻とともにキャンベラに移住し、AMSATインターナショナル(前身はAustralian Marine Science and Technology)において国際開発分野での経験を積みました。AMSATインターナショナルでは、インドネシア、ASEAN諸国、南アジア諸国、太平洋諸国における、教育、海洋インフラ、その他海洋?海運分野の国際開発プロジェクトに責任者として携わりました。そして2013年後半から、現職であるANUedgeの開発プロジェクトディレクターを務めています。
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-現在、ANUedgeの開発プロジェクトディレクターとして勤務されています。主な任務や職務はどのようなものでしょうか。
ANUedgeは、オーストラリアの首都キャンベラにあるオーストラリア国立大学(ANU)が完全所有する系列会社、ANUエンタープライズ株式会社(ANUE)のコンサルタント部門です。ANUedgeは、ANUにおける研究や蓄積された専門知識を実社会の問題解決に応用することで、研究および学問に基づいたコンサルティングを行っています。ANUedgeのコンサルティングは様々な規模で行われ、扱う分野も多岐にわたります(ジェンダー問題、社会的影響の評価、ガバナンス、気候変動、環境管理、事業革新、リーダーシップおよび組織力強化、産業戦略など)。また、クライアントには、大手多国籍企業を含む民間企業、政府関連機関、国際開発機関などが含まれます。
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大学の研究?専門知識を実社会の問題解決に応用するために
私は、開発プロジェクトディレクターとして、ANUedgeのクライアントやANUの学者や関係者のネッ
トワークを活用して、主に国際開発の分野での新たなビジネスの芽を見出し、育て、ビジネスとして確かなものにする諸活動を指揮しています。主なクライアントはオーストラリア国際開発庁(現在は外務貿易省)などの国際開発機関、国連機関、世界銀行やアジア開発銀行(ADB)などの国際開発金融機関です。主な任務としては、プロジェクトの設計および開発、アジア太平洋諸国のプロジェクトパートナーとの国際協力関係の構築と強化が挙げられます。私の仕事を一言で表すと、ANUの研究や知識と(国際)開発プロジェクトビジネスの市場とを結びつけることです。ANUの研究や知識は特許や知的所有権(IP)によって制約を受けることなくプロジェクトに提供され、コンサルティングに関するANUの具体的な規則に則って活用されています。クライアントに革新的で優れた解決案を提供すること、また、グローバル市場での私たちのネットワークを拡大、強化することを目的に、ANUの学者や研究者と外部のコンサルタントをつなぎ、プロジェクトを通じて協働作業を行うことにも取り組んでいます。
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-現在の立場から、ANUが大学における成果を商業化することでどのようなチャンスが生まれ、また、どのような課題が生じるとお考えですか。
難しい質問です。この問題については、様々な角度から考えることができると思います。ANUedgeはコンサルタントサービスを提供することを目的に設立されました。知識を生みだし、それを所有または統合することのできる学者や研究者の能力を活用し、研究を商業化することが、その設立の背景にある考えです。ただし、知的所有権や特許によって保護されている、主に技術関係の研究などによるANUの成果は、ANUedgeではなく大学内の別の部門によって管理されています。
経済成長の著しいアジア太平洋諸国で高まる、研究を基盤とした技術製品への需要
長年にわたって築き上げられたANUedgeのプロジェクト管理能力および知識統合能力と、ANUの優れた研究能力を組み合わせることで、アジア太平洋諸国の社会経済成長に対応していくことができると私たちは考えています。この社会経済成長はニッチ市場を生み出し、それにともなってコンサルタントサービスや研究を基盤とした技術製品への需要が高まることが期待されます。しかし、それと同時に、私たちのコンサルティングに組み込まれた革新的なアプローチは、従来よりも多くのリスクアセスメントを要する可能性もあります。私たちは常に、業務における効果と効率を確保しながら、私たちの事業提案とクライアントの要求とのバランスをとるという難しい課題に取り組んでいます。ANUedgeは、ANUの研究や知識を必要とする経済成長や革新にチャンスがあると捉えています。
ANUedgeは大学が持つ研究能力と、外部市場の商業的な需要の橋渡しの役割を担っているため、私たちにとっての大きな課題は、市場の要求と学者たちの研究目標を一致させることにあります。ANUedgeは産学連携を実現し、それを強化する上で重要な役割を担っています。
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-職務で直面している最大の課題と、これまでのキャリアにおける最大の魅力、もしくは、やりがいについて教えてください。
国際開発プロジェクトの資金の大部分は、依然として政府開発援助(ODA)に支えられています。私たちのプロジェクトも例外ではなく、ODAの資金源の一例である外務貿易省(DFAT)が最大の資金提供者となっています。世界におけるODAの展望は変化しつつあり、インドや中国のように、かつてはODAを受け取る側であった国が現在では援助国へと変化しています。その結果、長年にわたる援助国やその支援機関(DFATなど)は、予算の優先事項を調整し、援助構造の見直しと再編成を行うことを余儀なくされました。したがってここでの課題は、プロジェクトの被援助国側のステークホルダーにプラスの影響をもたらす分野は何であるのかという側面と、特定の分野や援助部門に対して、援助可能な資金をどのように提供するのかという側面のバランスをとることにあります。
ANUedgeのもうひとつの課題は、数少ないODA資金源への依存を減らすことです。これを達成するため、私は現在、世界銀行やアジア開発銀行(ADB)など、他の国際開発金融機関の出資によるプロジェクトへの関わりを増やそうと努めています。開発支援における民間セクターの取り組みが重要視されている今、プロジェクトの実施を通じて、革新的な思考に基づく革新的な解決策を導くことも、極めて重要になってきています。私は、革新的な開発プロジェクトを設計するために、援助活動に対する自分自身の理解と、イノベーション分析の経験を統合したいと考えています。
私の仕事において最もやりがいがあると感じることのひとつは、研究とビジネスとをつなぎ、収入源を生みだしてANUの研究を支えるということにあります。そして、ANUedgeはこのような役割を果たすために最適な場所であると考えます。ANUedgeが橋渡し役となることで、私はANU内の研究者や専門家とつながることができ、さらに彼らを政府関係者、多国間機関、ビジネス、さらには様々なコミュニティーで構成されるグローバル市場ネットワークへとつなげることができるからです。こうしたプロセスにより、研究に価値が与えられ、コミュニティーには利益をもたらされると考えています。
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実際の政策の事例を用いた教授陣の経験に基づく授業から、問題解決や政策決定のプロセスについて学びました。
―GRIPSで学ぶことになった経緯を教えて下さい。また、GRIPSにおいて学んだことの中で最も重要なものは何ですか?GRIPSでの経験は将来に向けてどのように役立つと思いますか?
GRIPSの前身である埼玉大学大学院政策科学研究科(GSPS)の存在は、BPPTにおいて技術?革新政策の部門で政策策定に携わっていた頃に、BPPTの先輩たちから聞きました。実は、この時のBPPTの上司で、2010年から2014年までインドネシア科学院(LIPI)の理事長を務められていたLukman Hakim教授が、文部科学省の奨学金に応募するにあたって推薦状を書いて下さり、また、GSPSの選考にも出席して下さったのです。Lukman Hakim教授はGSPS(GRIPS)の修了生で、GRIPSの"Almnus of the Month"のページでも紹介されています。
政策科学の国際的な大学院としては日本で最も規模が大きく歴史も長いGRIPS(前身はGSPS)で、世界の名門大学出身の教授陣から、一流の学際教育?指導を受けることができました。東京大学や京都大学のみならず、ハーバード大学、マサチューセッツ工科大学、スタンフォード大学、コロンビア大学、コーネル大学、イェール大学などから学位や博士号を取得した教授陣です。このように優れた教授陣から教えを受ける機会を得られたことに、本当に感謝しています。授業は小人数編成であったため、教授や他の学生たちと、意見や考えを共有することができました。こうしたコミュニケーションは、知識や理解を深めるだけでなく、専門分野を究めようというモチベーションを高めてくれました。丹羽富士雄教授の指導のもとでの1年間にわたる研究と修士論文の執筆を通じて、私は日本特有の勤勉さや、問題解決に対する体系的なアプローチ、有意義な議論を行うための入念な準備、そして因子分析でデータや数字を扱う際に必要な「細部を見る目」について学ぶことができました。GSPS(GRIPS)での学んだことのうち最も重要だったのは、学際的アプローチを使った研究を通して政策を分析する能力です。これは、政府において実際に政策に携わった経験のある教授陣から教わったことです。実際の政策の事例を用いた、彼らの経験に基づく授業から、問題解決や政策決定のプロセスについて多くのことを学びました。
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-GRIPSでの一番の思い出は何でしょうか?また、日本を懐かしく思うことがあれば教えてください。
私は院生会の委員長として、GSPS(GRIPS)の学生パーティーなどを含む交流活動の準備を指揮しました。その中でも、忘年会は特に心に残っています。一番の思い出といえば、私が全参加した研究旅行です。この旅行では研究だけでなく、日本の景色や文化を楽しむことができました。北海道では有名なサッポロビールの工場を見学し、道内最北端からはロシアのサハリンを海の向こうに見ることができました。また、九州の自動車産業地帯を訪れた際には、福岡の街を満喫しました。何より最高だったのは、沖縄です。沖縄では熱帯性の気候と、そのすばらしい食文化を存分に楽しみました。沖縄料理の美味しさは、私が海外で体験した食文化の中でも一二を争うと思います。
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-Purbaさんはもう何年もの間、母国であるインドネシアを離れて暮らしています。今、インドネシアの何を恋しく思いますか?また、オーストラリアの生活のどのようなところを気に入っていますか?
私は今、家族と一緒にキャンベラで暮らしています。キャンベラはオーストラリアの東海岸から少し内陸に入ったところにあり、シドニーとメルボルンのちょうど中間点あたりに位置します。キャンベラの都市計画は非常に優れており、人口はたったの38万人ほどで、キャンベラ市内であればどこに行くのにもさほど時間はかからない一方で、非常に広々としています。
私はジャワ島にあるジャカルタで育ったのちオランダに留学し、その後は東京に留学しました。これらの場所はすべて、最も人口密度の高い島、国、都市に含まれています。ところが私は、こういった「混雑」から離れて、キャンベラというきわめて広々とした都市に住むことになりました。OECDの2014年のランキングによれば、キャンベラは世界で最も住みやすい場所だそうです。そして、世界の様々な都市を訪れ、そこで暮らしたことのある私の経験から言っても、このランキングは正しいのではないかと思います。
それでも、インドネシアを恋しく思うことはたくさんあります。私は仕事でジャカルタを訪れるときに家族と時間をともにできるので恵まれているとは思いますが、やはりインドネシアに離れて暮らす家族のことは恋しく思います。また、キャンベラにはインドネシア料理のレストランが少ないので、インドネシアの食べ物は非常に恋しいです。その他にも、インドネシアの熱帯性の気持ちの良い気候や、海岸、湖、火山、棚田などの美しい景色を思い出します。インドネシアでは、このような景色を1年中、Tシャツと短パンだけで楽しむことができます。
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-GRIPSとの関係をどのように維持していきたいと考えていますか?卒業生として、GRIPSにどんなことを期待しますか?
はじめに、Facebookを使って修了生のつながりをつくって下さったGRIPSスタッフのみなさんの努力に感謝申し上げたいと思います。私は Facebookに頻繁にアクセスして、GRIPSの最新情報を得たり、世界中にいるGRIPSの同窓生たちと連絡を取り合ったりしています。また、私は仕事上でもGRIPSに関わりたいと考えています。例えば、GRIPSとANUedgeおよびANUとの間の共同プロジェクトや教育連携などを想定しています。また、将来的には、オーストラリアや日本の国際援助資金を活用したプロジェクトや教育活動などにおける共同作業という道もあるのではないでしょうか。私は修了生として、GRIPSが成長を続け、教育と研究の質がさらに高まっていくことを期待しています。GRIPSは、研究の商業化の可能性やそのメリットとデメリットについて吟味することで、国際的なプロジェクトを通じて公共政策の研究で社 会により貢献できるようになるのではないでしょうか。そしてこれは、GRIPSで学ぶ人々の出身機関であり、国際的なプロジェクトを実施する組織でもあ る、国際公的機関との協調関係を強化することにつながるのではないかと思います。これによって、GRIPSは現在のパートナーである公的機関を超えて、そのネットワークを拡大できるのではないかと考えています。
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